<フィラリア予防薬の投与前検査について・その必要性と信頼性>
| フィラリアの予防薬は獣医師が事前検査をして与えないと副作用が生じ、危険だとい う説明が動物病院のホームページやそれを受け売りした個人のサイトにも時々見受けられます。 このページでは動物病院の行う事前検査がどういうものであるかについて紹介します。 国内ではフィラリア予防薬を投与するにあたって体内の成虫の有無を確認する事前検査を行うことが義務づけられています。 これは一般的に「フィラリア予防薬による副作用を防ぐため」と説明されています。 しかし実際には深刻な副作用が発生することがないのは専門家である獣医師が一番よく知っています。 日本では海外と違って全てのフィラリア予防薬が処方薬に区分けされていますから、国内医薬品を使用する限り医師の処方が必要です。 また処方をするために事前検査が必須であるともされていますが、海外では事前検査が義務づけられていないという事実があり、事前検査の必要性については重大な疑問が残ります。 事前検査の必要性と同時にその信頼性についても疑問が残ります。 そもそも「事前検査」自体が成虫の有無を厳密に確認するよりも飼い主の目の前でやってみせる有料パーフォマンスの意味合いがあります。 フィラリアの成虫が体内にいるときにそれを駆除すべきかどうかは、その棲息数や犬の年令・体力などにより総合的に判断されます。 体内の成虫数の多寡は多くの場合、犬の環境や年令により推測が出来ますから成虫の駆除を前提にした事前検査を必要とする犬の割合は自ずから限られます。 そして成虫の駆除を前提にしなければ事前検査に大きな意味はありません。 結果が陽性であれ陰性であれフィラリア予防薬の投与は必要なのです。 今結果が陰性だからといって予防が不必要ということにはならないことは当然です。 動物病院で行う事前検査の方法で簡便なのは血液を採取して顕微鏡で覗くことです。 つまり、血液中にフィラリアの幼虫(ミクロフィラリア)がいれば、それを産んだ成虫がいるだろうということです。 これは真実ですが、逆も又真なり、ということではありません。成虫がいても幼虫が検出されないことはままあるのです。この幼虫検査の信頼度は極めて低いものです。 フィラリアは雌雄同体ではありません。ですから成虫が1匹だけの時はもちろん、同性だけがいたのでは繁殖をせずしたがって幼虫はいないですから顕微鏡では判断できません。 フィラリアの雌雄比率はおおよそ4:1とされていますから、その数字を元にすれば体内に幼虫を産めるだけに成長したフィラリアが2匹いるとしてそのうち雄がいる確率は36%です。同様に3匹いる場合の確率は49%と約半分、4匹いて初めて雄のいる確率が60%になります。当然数が増えればその中に雄のいる確率は増えますが、体内に10匹いる場合でも雄がいない確率は10%あります。顕微鏡を覗いたのでは体内に10匹の成虫がいても幼虫を検出できない可能性がこれだけあるのです。 (このように成虫がいるはずなのに検査結果が陰性になることをオカルトといいます。) フィラリア成虫が産み落とした幼虫(ミクロフィラリアL1)は犬の血管内にて蚊に吸われて体外に出るのを待ちますが、この幼虫は犬の健康に何ら害を及ぼしません。 蚊に吸われなかった幼虫は成長出来ずに犬の体内で無害なまま自然に死滅してしまいます。 蚊に吸われて一旦犬の体外に出た幼虫のみが蚊の体内で成長して、その蚊が血を吸うときにまた別の犬の体に戻って有害な成虫になるのです。 フィラリアの成虫の寿命は4〜5年とされていますから、もし今少数の成虫が体内にいても予防薬を与えて新しい成虫が寄生できないようにすれば4〜5年でフィラリアはいなくなります。(いなくなっても成虫存在時のダメージは残ることがあります) 事前検査の精度を上げるために試薬により抗原検査を行う方法も広く行われています。 この方法ですとフィラリアの雌雄に関係なく確認が出来ますが、それでも信頼度の高い結果を得るためには最低4〜5匹のフィラリアが存在しなければなりません。 試薬の感度を上げるとフィラリアだけでなく回虫の抗原が存在していても結果が陽性になってしまうからです。(※文末にフィラリア検査キットの信頼性についての論文(抄訳)を紹介してあります) 申しあげたようにフィラリアの事前検査の信頼度は決して高くないのですが、だからと言って獣医師がそれを大きな問題としていることはないようです。 実際問題として、成虫がいてもいなくても予防薬を飲まなければならないのは事実ですし、もしその犬にフィラリアのいる可能性が少しでもあれば成虫がいるものとしてより安全な予防薬を与えれば済むことだからです。 したがって、成虫の駆除や駆除の必要性の判断を目的としてその前に検査をするという場合を除き、事前検査には大きな意味がありません。現にオーストラリアや米国で予防薬の事前検査なしでの投与を認めていることが如実にそのことを示しています。 「事前検査をすれば他の病気も発見できるのだから事前検査は絶対に必要である」との獣医師の主張が時折見られますが、これは問題のすり替えです。 他の病気を発見するのは健康診断に属します。まして、血液検査だけで犬の健康チェックが出来るものでないことは人間が健康診断を受けるときのことを考えれば部外者にも分かることかと思います。 「検査なしで薬を飲ませてもし副作用が出たらどうするか?」といって消費者の不安を煽るコメントもよく見かけます。 フィラリアの予防薬の安全性が極めて高いことは獣医師なら誰でも知っている事柄です。同じ成分の薬を同じ量飲むのですから日本製とオーストラリア製で安全性が異なるわけがありません。 副作用の話は元々が仮定の話に基づくわけですから、水掛け論に陥ります。 私達が「安全です」といっても「もし副作用が出たらどうするか?」「もし副作用が出たときに責任を取れるのか?」といった話は延々と続きます。 消費者の方にはどちらかを信じてもらうしかありません。 消費者の無知と業界保護の規制に頼って法外な利益を上げている業界を信じるか、予防薬を先に開発承認し現に一般薬として薬局などで広く販売されている米国やオーストラリアの基準を信じるかは一般個人の自由です。 <結び> 日本のフィラリア予防薬の価格は公正な国際価格で販売されるべきです。 競争を排除して規制に頼ること自体がフェアではないと言えますし、ましてや消費者に欺瞞的な情報を流してまで公正な競争を阻害しようとすることなど論外です。 「海外の怪しい予防薬を飲まされる犬達は気の毒だ・・」ある獣医師のホームページにあったコメントです。 世界の一流メーカーの製品をインチキ呼ばわりしなくても、日本の動物病院がフィラリア予防薬の価格を国際的水準にまで引き下げれば消費者もわざわざ手間をかけて海外から購入する必要もないでしょう。 現在のフィラリア予防薬の国内価格は明らかに多くの犬から予防薬を与えられる機会を奪っています。 値段が今の4分の1になれば今は価格が高くて薬を買ってもらえない犬達にも薬が与えられる機会が増え多くの犬がフィラリアから解放されます。 価格が公正であればもっともっと多くの犬が助かるのです。 |
フィラリア検査キットの信頼性についての論文(抄訳)
| ■少数のフィラリアが寄生しているイヌで、3つの市販の糸状虫抗原検査キットの結果を比較した。 [目的] 少数のフィラリアメスの成虫が感染しているイヌの血清で、3つの市販フィラリア抗原検査キットを行い、その結果を比較すること [構成] 盲目検査評価 [サンプル集団] 検死時に1-4匹のフィラリアメス成虫の感染が確認されたイヌ(n=208)とフィラリアがいないイヌ(n=32)の血清サンプル [方法] 個人診療所のイヌの感染状況が知らされていない免許がある獣医テクニシャンにより、メーカーの指示に従いサンプルを各検査キットで連続して検査した。検査キットの評価の順番は無作為に選択した。各検査キットの感受性、特異性、正確性、陽性的中率、陰性的中率を評価した。 [結果] 全ての検査は偽陰性結果となり、少数フィラリア寄生の検出能力で有意差は出なかった。検査キットの感受性は78〜84%だった。全ての検査キットで、メスのフィラリアが増加すると感受性も増加した。3つの検査キットの特異性は高かった(97%)。 結論と臨床関連:結果は、少数フィラリア寄生のイヌの血清を試験するとき、3つの市販フィラリア抗原検査キットの感受性の範囲は78-84%で、試験キットの中でも感受性は変化することを示した。3つの検査キットの特異性は97%だった。3つの検査キットは、少数寄生のイヌで偽陽性や偽陰性結果を示すこともあった。 出典 |